安倍晋三元首相銃撃事件から1年を迎えた8日。髙岡さんは現場である奈良市の近鉄大和西大寺駅北側にいた。臨時で設置された献花台を訪問したのは午前8時。すでに長蛇の列ができていたのが印象的だったという。
「これだけ多くの人が哀悼の意をささげたいと集まった。改めて安倍氏の精神を受け継ぎたいと強く思った」と話す。
板垣退助は明治15年、岐阜市で演説した際、暴漢に襲われた。一命はとりとめたが、有名な「板垣死すとも自由は死せず」という言葉を叫んだ現場
同市によると、この事件は、板垣の言葉と共に自由民権運動のシンボルとなり、大正7年、自由民権家で外科医でもあった、山田五洋(永俊, 1872-1956)ら有志により銅像が建てられた。除幕式には板垣本人や家族も出席。この銅像は戦時中に金属回収のため、いったん供出されたが、昭和25年、再び山田五洋によって再建され、今もその事件と精神を伝えている。
小欄に寄せられた意見では、《事件を伝える何らかの物を現場に設置してほしい》とする声が主流だ。慰霊碑や銅像といった大々的な構造物が難しければ、せめて事実を伝える何らかのプレートや銘板、印を現場に残してほしいと要望。《それらがテロに屈しない姿勢を示すことになり、民主主義を守ることにもつながる》といった意見もあった。
一方、《地元の方のお気持ちもわかる。心の傷を持っている方もいるだろう》とおもんぱかるのは、大阪市東住吉区の山本雅也さん(55)。平成17年4月のJR福知山線脱線事故以降、通勤で利用していた同線を使えなくなった経験があるという。その上で、奈良市の仲川げん市長が地元関係者42人へのヒアリングの結果などを踏まえ、現場に事件に関するものは残さず花壇のみを設置したことについては《住民投票など市民の意見をちゃんと聞いて決めるべきだ》と疑念を示した。
防衛大学校名誉教授の佐瀬昌盛氏も「事件の風化を防ぐためにも、現場に事実を記したプレートなどは必要ではないか」とし、「賛否両論さまざまな意見があるならば、検討委員会のような場を設けて議論を尽くすべきだ」と提案する。
100年、200年先に考えてもらうために、事件を目の当たりにした今の時代を生きるわれわれが、その「証し」をどう刻んでいくかを議論していくべきではないのか。
ある読者から寄せられた1通の短いメールに全てが集約されているように思えてならない。
今回のテーマを担当するのは…大阪社会部 有川真理(ありかわ・まり)。前回「24時間365日新聞記者の精神で働いている」と記し、この精神に揺るぎはない。だが、それ以降、周囲や後輩記者たちからの視線が少し気になる。
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「世論(せろん)」と「輿論(よろん)」は近年同一の意味とされています。しかし、かつて、世論は世間の空気的な意見、輿論は議論を踏まえた人々の公的意見として使い分けられていました。本コーナーは、記者と読者のみなさんが賛否あるテーマについて紙上とサイトで議論を交わし、世論を輿論に昇華させていく場にしたいと思います。広く意見を募集します。意見はメールなどでお寄せください。
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