駐ブラジル公使・西島章次さん事故死の訃報が飛び込んできた。
親しい間柄であった。ニュースでは「事故の時、夫人も同乗していた」あり、非常に心配している。
今年8月半ば、サンパウロで開かれた、ブラジルで最も権威のある経済学賞の授賞式。
経済学者ロベルト・マセドさん(69)は、受賞あいさつで30年来の交友のあった西島さんの逝去を悼み「かけがえのない人を失っ
た。言葉もない」と述べた。「彼は経済だけでなくブラジル社会、日本の文化を互いに伝えた」と。
西島さんは、ラテンアメリカ経済、特にブラジルを主な研究対象とした。1980年代の経済危機当時の政策などを題材に論文を著してきた。経済理論から政策を読み解くだけでなく、民衆の生活や反応が政策形成に及ぼす影響も丁寧に追い、全体像がわかりやすいと評判だった。その著作や講演が転機となった人は多い。独協大の米山昌幸教授(48)=国際経済学=もその一人だ。大学卒業後、銀行に就職したが数年で辞め、神戸大学の西島ゼミで学び直した。
「学生時代、西島先生の講演を聴いて、社会の仕組みが見えた思いがした。発展途上国支援の夢を効果的に実現する方法を学べると思った」と。ゼミでは言葉の使い方や引用データ、理論展開に疑問点があると徹底的に詰める厳しさを見せた。だが授業を離れると、生徒を自宅に招いて奥さんの手料理でもてなし、病欠の生徒を見舞い、時にはギターの弾き語りも披露した。他大学の学生に対しても、研究内容を知り「輝く若手の登場を期待しています」と手紙を送ったことも。毎木曜日のゼミは、学外の生徒や卒業生まで顔を出し、意見を交わす場になっていた。
今年4月、ブラジルの日本大使館公使に。自身の研究を深めるだけでなく、経済学の講義を開き、人材の育成に力を注いだ。「ありがとう」「obrigado」。大使館に置かれた記帳のノートは、両国からの感謝の言葉であふれていた。(岩田誠司)